蓮名文庫
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Order Made

ML/リクエスト企画/短編集




WICKED EGOIST


VIOLATE A RULE




 俺の父は弁護士で、小さい頃から「法律だ、正義だ」と嫌になるくらい聞かされて、果ては俺の心を折檻した。
 とにかく父は厳しく、俺は父親に頭が上がらない。
 だからこそ、俺は父に負けない様に弁護士を目指す。
 自分の意思を表す為に……。

 家から一五分の所に父が経営する法律事務所があり、俺はその一室で勉強するのが好きだった。
 自宅は……煩い母がいて居心地が悪く、仕事中は父が俺に構う事はないから独りの空間を保てた。
「こんにちは、律くん」
「こんにちは……」
 扉を開けるとすぐに受付があり、事務員の立川瑛子さんが挨拶をしてきた。
「今日も書物庫開いてるから、後で紅茶持って行くわね」
「はい」
「瑛子ちゃん、コーヒー頂戴〜」
 にこやかに話す瑛子さんの後ろから、パソコン画面を睨み付けている男が声を掛けて来た。
「はいはい、ミルクたっぷりの砂糖二個で良いの?」
「うん、宜しく〜」
 言いながら男はパソコン画面から顔を外して、瑛子さんに笑顔を向けた。それに拠って、男は俺に気付く。
「律、来てたんだぁ」
 馴々しいこの男は法科大学院を卒業後、新司法試験に合格して司法修習から父の事務所に入った城戸悦士
 事務所に来て今年で二年目になるが、新人を入れない事からこの事務所ではまだまだ下っ端だった。
「書物庫お借りします」
 瑛子さんと城戸に会釈をして、事務所の一番奥にある書物庫へと向かった。
 此処には図書館に揃っていない書まであるから、知識を入れるには打って付けだった。
 俺は瑛子さんが持って来た紅茶を飲みながら、ページを捲った。
 何の音もしないこの部屋で、ただ俺が立てる物音だけが聞こえる。
 それが堪らなく居心地が良くて、独りの時間を満喫していた。
──ガチャッ
 誰か入って来たのか、俺の鼓膜が揺れる。
 どうしたって今抱えている客に沿ってしっかりと法律に当て嵌めなければならないから割りと皆調べに来るが、それは同時に時間がない事を示し、俺に構う事は殆どなかった。
 それよりも、俺がそうして欲しい事を皆勘付いている──が正しい。
 ドアから対極の窓際の席に座りながら、俺は参考書と法律書を開いて問題を解いていた。
──コツ……コツ……コツ……
 ドアのすぐ前に羅列する書物の棚から、先程入って来た人物が近付いて来る気配がする。
 俺が座るテーブルの右側には、少しの空間を置いて背の低い棚が壁にくっつけてあった。
 用事があるのはそっちだと思い、俺は顔を上げる事なく法律書を読み解いて行く。
 しかし、意外にも足音は俺の前で止まる。
 テーブルに置いてある、俺が選んで持って来た複数の本のタイトルを確認しているのか、数秒間テーブルを挟んだままそいつは俺の前から動かなかった。
 しかし突然、俺は右手首を掴まれる。
 俺は咄嗟に、そいつを睨んだ。
「本当、他人に興味ないんだな」
 意外にも、部屋にいた人物は城戸だった。
 いつもと雰囲気が違うのか、違和感を覚える。
 城戸は手を放すとテーブルを回って俺の右横に立ち、上体を折って顔を覗き込んでくる。
 此処にいる間だけは他人と関わりたくない俺にとって、城戸の行動は俺の神経を逆撫でしていた。
「父親に反発する為だけに弁護士になる奴が、そんな顔してて良いのかねぇ? 一応客商売なんだ、愛想は良くしとかないとなぁ」
 嫌な笑みを目の前でちら付かせながら、城戸は右手で俺の下顎を持ち上げた。
「触るな! 気持ちの悪い」
右手で城戸を払いながら俺は隠す事なくそう言ったが、城戸は笑い出す。
「良いねぇ。俺も色々と鬱憤が溜まっているんだ、嫌がる奴を犯すくらいが丁度良い」
 城戸は俺の体を左に押し、上体が揺らいだと同時に左脚で俺が座っている椅子を思い切り蹴った。
 とどまる場所がなくなった俺は、そのまま床に落下した。
「何すんだよ!」
「人に従う事に慣れてないからさぁ、どうしても捌け口が欲しいんだよ。家の連中じゃあ、議員の息子って事で従順だし、それもそろそろ飽きちゃったんだよねぇ」
 城戸が入った当初、父から政治家の子息だと言う事は聞いていたが、人懐こくたまに癇に触る事を言うくらいで、どうでも良かった。
 それが、今では別人の様だ。
「俺を従わせる奴の息子で、親子仲は最悪。まぁ……さんはそんな事解ってないんだろうけど、俺に取っては好都合だ」
 俺の両手首を押さえ付けながら、城戸は淡々と話し出した。
「何のつもりだ?!」
「あれぇ、聞いてなかったぁ? 捌け口にお前を“犯す”って言ったの」
 俺を見下ろしていた城戸は俺の耳元に顔を近付けると、触れそうな所でそう囁いた。
 この状況だけでも嫌気が刺すのに、城戸は更に吐き気のする事を言う。
「ふざけんな! 誰がお前なんかにっ」
「この状況で何が出来んの? 保さんに言ったとしても、男に襲われたお前を哀れむと思うか? 父親らしい事も出来ないあいつは、一層お前から目を背けるだろうなぁ」
“解っているんだろ?”と言わんばかりに、城戸は笑みを含みながら俺に目を合わせてくる。
「最低だな」
「最低、最悪、結構。溜まったモン出せれば、それで良いんだよ。お前の意思なんか必要ない」
 言い終わると城戸は掴んでいる手に更に力を入れて、俺の頭上で一つにした。
 空いてる手で、制服のカッターシャツの釦を外していく。
「どうなるか解ってんのか?!」
「ざぁんね〜ん! 大声を出した所で、誰もいないんだよねぇ。唯一の頼り所の瑛子ちゃんは、お前の父親に書類を渡す為に今いないし、俺の親父とメシ食って来るから二人揃って帰って来るのは九時頃じゃないかなぁ? 三時間もあるんだ。イイ声で鳴いてくれよ、律ちゃん」
 ふてぶてしい城戸はそう言うと、露になった俺の上半身を舐め出した。
 俺は悪寒を感じて叫ぶ。
「ふざけんな! 止めろ!」
 どんなに騒いでも、城戸が止める事はなかった。
 それどころか、更に状況は悪化した。
 城戸は俺の腹部を舐め上げながら、空いている右手でベルトを外しファスナーを下ろした。
「お前っ、何考えてんだよ?!」
「だぁから、楽しい事。あんま力んでも良い事ないよぉ。一緒に楽しまなきゃ」
 城戸は憎たらしい笑みをわざとらしく俺に見せると、一気にズボンと下着を下ろした。
 俺は嫌悪感と羞恥心で、どうにかなりそうだ。
「何が楽しいんだ?!」
「ナニが。それ目的じゃなきゃ、ここまでしねぇよ」
 押さえられている両手に力を入れるが、それ以上の腕力で阻まれる。
 両脚を使うにも、城戸の体が邪魔で動かせない。
「さぁて、どんな反応してくれんのかなぁ」
 笑みを零しながら、城戸はゆっくりと萎えたままの俺を口に含んだ。
「ざけんな……っ」
 どんなに足掻いても城戸に通じる訳がない。
 何処かでは解っているが、抵抗を止める事は出来なかった。
──ガンッ!!
 一瞬の隙を付いて、俺は城戸の腹を思い切り蹴った。
 それに拠って城戸の体は俺から外れ、すかさず城戸と距離を置いた。
「良いねぇ、悪足掻き。もっと見せてよ」
 城戸は立ち上がると、挑発めいた笑みを見せてくる。
 背後に逃げ場はなく、はだけたシャツ一枚で身構えるのが精一杯だ。
 動けない俺を城戸は見下ろしたまま、ゆっくりと近付いて来る。
「法を犯す気か?」
「状況判断だよぉ、律ちゃん」
 俺の前まで来ると、城戸は口角を上げながら驚愕な事を発する。
「容赦して欲しくないんだろ?」
 眼を見開き、俺は咄嗟に本音を口走る。
「お前なんか嫌いだ!」
「それは良かった、俺も嫌いだよ」
 睨む俺に、城戸は微笑む。
「一生消えない傷を作ってあげる」
 そう言うと城戸は座り込む俺の手首を掴み、膝立ちした状態で両手を後ろに回して体を密着させた。
 俺の両腕を右手で固定すると、もう一方で首の根元を掴んで上に向かせられる。
 強引にキスされ、舌を入れられ……それが嫌で城戸の舌を思い切り噛んでやったが、城戸は引く所か俺の頭に手を回して自分の方に押し付けた。
 それとは逆に口内から舌を退かすと、俺の唇を噛んで怯んだ隙に舌を絡め取ってきつく噛む。
 口腔中を蹂躙され、やっと終わった頃には息苦しさで肩を揺らした。
「本当……最悪」
「甘いなぁ、まだ序の口だろ」
 睨む俺を、城戸は楽しそうに見遣る。
 城戸は俺の右肩を掴むと、俯せに押し倒した。
「慣らさないまま挿れたら、どんな苦痛だろうなぁ?」
 えげつない笑みを零しながら、城戸は非道な事を言う。
「イカれてる」
 尋常じゃない城戸に俺は重い声で呟いたが、嫌悪感に苛まれている俺の背後からは、ベルトを外す音が聞こえて来た。
「男って面白いなぁ。楽しみってだけで興奮して、既に俺のは絶好調だよ」
 卑猥な事を言いながら、城戸はソレを俺の秘めた場所にあてがう。
 俺は湧き上がる怒りに着いて行けず、全身に力が入り震えていた。
 唇を噛み締め過ぎて、血の味がする。
 そんな俺を見て、城戸は喜々とした声を出す。
「屈辱を味わえよ」
 何もされていないあてがわれた場所に、城戸は無理矢理侵入した。
「あ゛、い゛っ」
 苦痛で出た声を追い立てる様に、城戸は更に先を進めた。
「あ゛っあ゛ああああ!!」
 自分の声なのかすら解らない。
 体中に駆け巡る苦痛が、ふざけた男への嫌悪感と相俟って憎悪へと変わる。
 だが城戸は容赦なく全てを咥え込ますと、欲望を追う様に動き出した。
「イイねぇ。もっと犯してやりたくなる」
 外道な男は笑みを零し、それは正に「邪悪」でしかない。
 最後の一滴まで俺の中に吐き出すと、やっと男は退いた。
 押さえられていた両腕と異物を入れられていた箇所は、痛覚を全て開かされた様に激痛が走り、痺れていた。
 横たわる俺を見下ろしながら、身仕度を整えたそいつは最後の台詞を吐く。
「気が向いたら、また遊んでやるよ」
 見下した眼で口角を上げながら城戸悦士は去り、散々踏躙られた俺は独り冷たい床を見詰めていた──。

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