久多良木文庫
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Lovers Tale

BL/ML/ラブコメ短編集




紳士な上司 逢引のその後




 一区切りした仕事の合間に一息入れようと俺は給湯室にやってきた。
「まだやる事は山ほどあるしな……コーヒーにしておくか」
 押し寄せる疲労に少しの眠気を感じつつ溜息を吐く。今日中の仕事はまだまだ終わりそうになく、それどころか残業にまでなりそうな気がしていた。
 給湯室の前までくると中から何やら話し声が聞こえてきた。どうやらそれは数人の女性社員のようで、何故か入りづらく思った俺は意識を集中して耳を澄ませた。
「ねぇ見た? 今日のあの二人!」
「見た見た! もう超萌えたー!」
「なになに!? すっごい気になるし!」
 誰のことだ?
「それがさー。今日の昼休み、鷲原君が都谷さんをオフィスから強引に連れ出したのー!」
「えーっ!?」
「しかもその後ね、二人で会議室で仲良くご飯食べてたんだって!」
「きゃー! マジでー!」
「そうそう! もう鷲原君超可愛かったー!」
 ……な、な、なななんとおおおおおお!?
 これが例の噂というやつで、まさか自分の噂を直接耳にするとは思ってもおらず、俺はとんでもないところに出会してしまったらしい。
 数時間前のお昼休み、俺は都谷さんと逃げるようにして会議室に飛び込んだ後、お礼にと持ってきていた重箱弁当を二人で食べた。それはまるで密会のような、ちょっとのスリルを味わった。
 でも、俺が都谷さんを強引に連れ出したって、なんだってそんな話に……。
「鷲原君ってば、いきなり都谷さんの手を握ってオフィスから出てっちゃってさー」
「そうなの! すごい顔真っ赤になっちゃって!」
「私も見たかったー!」
 当の俺はといえば給湯室の入口のすぐ傍で壁に凭れたまま頭を抱えてた。
 迂闊だった。あの時は都谷さんを昼食に誘うことが目的で、それしか頭になかったからすっかり油断していた。そのことが噂の種の一つになるなんて、俺はなんて馬鹿なんだ。
 結局、そんな噂話が溢れる給湯室に入っていく勇気もなく、オフィスに戻った俺はまた暫く頭を抱えてデスクに突っ伏していた。

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