DOLL
BL/純愛/R指定
黒のメサイアと仮面のご主人様 第一幕
新たに「この」世界の統治者が決まった時。多規模な改革が行われた。
過去には一度廃絶された人々の支配階級が復活し、大きく三段階に分かれ、「クラウン」「センター」「レスト」とされた。
「クラウン」は統治者となった一族と、それに纏わる貴族のことを指し、「センター」は人権・民権を持つ全ての者のことを指した。
そして「レスト」とは、文字通りそれ以外という意味で、「クラウン」によってあらゆる権利を剥奪された者の事を指した。また、人間でありながら、同じ人間である「クラウン」、「センター」の者らに飼われる存在とされていた。
人は皆、平等であるという理念を掲げながら、「センター」の人々は「センター」の中で生きていた。
だが、長い時が経ち、多くの「センター」の者はこの支配階級で作られた「レスト」の存在を忘れていった。それは「センター」の中でもさらなる階層が生まれ、独自の格差社会が確立していったからだ。また、レストと同等の身分の者たちも、「センター」の中では生まれていったのだ。
ただ、「クラウン」だけは何も違わず、政府の一端として、静かに、見守るように全てを管理していた。
しかし、一部の「センター」の人間は忘れていなかった。
「レスト」の存在を。
鳳凰歴。七一四年。アンダーグラウンド──地下街。
政府も干渉できない、法外でできた地下街は、「センター」のとある資産家が遊びで作ったものだった。無法地帯である地下を買い取って作られたこの街には、公にはできない非合法な商売を主とする店ばかりが建てられた。
中でも多かったのが娼館だった。女はもちろん、男を扱う店も多く建てられた。
しかし、扱われる人間たちのほとんどには、ある共通点があった。
地上では皆無といってもいいほど、知られていない存在である彼らには、身体の一部に共通の烙印を抱えていた。
そして彼も。そのうちの一人であった。
「はぁっ、はぁっ……どうしよう。遅くなっちゃった……怒られちゃう……」
「DOLL」という看板が掲げられた洋館風の建物内に青年は息を切らしながら駆け込んだ。両腕には、品の入った大きな紙袋を抱えている。そしてそのまま、脇目もふらずに一目散と向かった先は、「SHOW ROOM」というプレートがかかっているホール。その扉の前で、彼は立ち止まった。
額から迸る汗を拭うのもそこそこに、弾む息を整えてから暗澹とした館内へと入館した。
壁際には夥しい様々な仮面と、特別な性癖でもない限りは使わないようなアダルトグッズが陳列するこのホールは、中央が何かのステージのようにぽっかりと開いている。
そこには、今は役目を果たしていない照明機材が集まっており、何かを催すためにあるのだということは、説明がなくとも一目でわかる。
周りには、それを鑑賞するためにあるような豪華な椅子やソファ、そしてテーブルがちらほらと設置されてある。
しかし、そこには先ほど入館した青年と、もう一人しかいなかった。そして、静かだったそこに突如、落雷のような怒鳴り声が轟いた。
「おそい! いったいどこまで出かけてたんだよ!?」
派手なファーと、煌びやかなチャイナドレスを身に纏った男が怒気に満ちた表情に苛立ちを含ませながら、ソファにどっかりと腰を下ろしていた。
薔薇のように真っ赤に染めた腰ほどまである長髪に、美人としか称しようのない端正な顔立ち。腰も細く、身長もさほど高くない彼の容姿は、まるで女性のようである。しかし、美しい顔立ちの彼の米神には似合わない青筋がくっきりと浮かんでいた。
対して、シックな黒のデザインのツナギを着ている青年は、目の前の男のような華やかさは欠片もなく、またその華奢な身体つきはお世辞にも雄々しいとは言い難い容姿だ。
割りと小さな顔立ちも、ツナギ同様の黒く長い前髪で目元まで隠れてしまっているため、その造りは美形とも不細工ともわからない。しかし、襟足までの長さの後ろ髪から覗く首筋は、白磁のように滑らかで、ほっそりとしている。
赤髪の男になおも怒鳴られる彼は何も言わず、紙袋を抱いたまま、一端腰を折る。
そして顔を上げると、腰ポケットの中から手の平サイズの電子メモパッドを取り出した。タッチパネル式の画面の上で、彼は素早く指を動かした。そうして、打ち終わった文字列を青年は確認することなくさっと、赤髪の男の前に翳してみせた。
〈すみません、マドカ様。オーナーに頼まれた物が、売り切れていたので、別の店に寄っていました〉
それを目にしたマドカという赤髪の男は、さらに憤慨した。
「煩い! 俺が頼んだ物を早く渡せよ! こっちだって準備があって忙しいんだからな!」
怒鳴られながら、しかし青年は何も言わずに紙袋の中に手を差し入れた。そして紫色のパッケージを取り出すと、さっとマドカに差し出した。
マドカはそれを奪うように引っ手繰ると、変わらず青年に罵詈雑言を浴びせた。
「ったく。俺はお前と違って身体張った商売をしてるんだからね! うすのろなんてゴミよりも使えないんだよ!」
〈すみません〉
謝罪を打ったメモパッドを翳す青年の頬に、マドカは容赦なく殴りつけた。かろうじて、青年は倒れなかったが、鈍い音とともに一筋の赤い雫が彼の口元から伝っていた。口内を切ったらしい。
そんな彼を、まるでゴミでも見るかのように蔑視するマドカは、今度は青年の身体を、自身の細い足で蹴りつけた。
「用が済んだらとっとと出てけよ! レストの分際で!」
青年はよろめく身体を支えながら、もう一度頭を下げてホールを後にした。
レスト。
その単語自体に、悪い意味はない。その他として使われるただの単語だった。しかし、それは青年にとって重く圧し掛かる言葉だった。
いや、青年だけではない。その単語で括られてしまう、人の形をした誰かにとっては、決して好ましくはない線引きだった。
同じ人間であるはずなのに、同じ人としての扱いが決して受けられない、レストとされる彼らは、ここ地下街では奴隷のように扱われるのが常だった。
公にはできない商売をするためには、レストは恰好の餌食だった。
レストに何をしても、決して罪には値しないのだから。何をしてもいいのだと人権を所持する彼らはそれこそ、レストに何でもしたのだ。
そんな運命を背負った者の一人であるこの青年は、今までそうして扱われてきた。
生まれてすぐにレストの烙印を捺された彼は、母から唯一与えられた名で呼ばれたことはなかった。
いつも適当に呼ばれ、命令に従う。
そして主が転々とし、今いるこの店で働くようになってからは、店名と同じ「ドール」と呼ばれるようになった。
それは彼が人前で決して口を開かず、常に持ち歩いているメモパッドを利用して会話を成立させることから、いつの間にか定着してしまった通称だった。
マドカからの使いが終わり、次に彼が向かった先は、オーナーのいる事務室だった。
ノックをしてから入室し、メモを翳す。
〈頼まれた物を買ってきました〉
「御苦労。いつもの棚に補充しておいてくれ」
コクリ。ドールは小さく頷く。
メモパッドを胸ポケットにしまうと、彼は抱えた紙袋の中から品を取り出して、綺麗に整頓されている棚の上に並べていった。
数々のそれは、先ほどのホールにもあったようなアダルトグッズである。
しかしオーナーは何も言わず、デスクに向かって業務を進めている。そのデスクの上にも、地上で暮らす一般家庭の者ならまず目にすることのない、特殊なバイブレーダーや、ワイヤレスローターが並べられてある。
だが、これはオーナーの私物ではない。
ここ、「DOLL」はSMを専門に扱う男娼館であり、このようなアダルトグッズは至る部屋に常備されている。先ほど青年が使いに出ていたのも、この商売道具の補充のためであった。
アンダーグラウンドでも有数のSM専門の男娼館。但し、S役、M役共に男性なのはもちろん、その他のスタッフも男性のみで構成されており、また客も成人男性しか来店を許可されない唯一の店だった。
この「DOLL」を経営するオーナーは二九歳と、この界隈ではかなり年若いが、同年の友人と二人で始めたこの商売を、数年という短い歳月で独自の店を構えるまでに成長させた。現在は経営一本に専念しているが、要望さえあれば、先ほどのホールでこの店の売りである公開SMショーにオーナー自らが出演することもある。
もともと、堀の深い端正な顔立ちと、色艶やかなブロンドの髪に、一八〇を超えた精悍な体躯、そして勝気な印象を与える切れ長な瞳という美しい容姿で客をとっていたのだから、彼の人気は今も衰えてはいない。
最も、彼以上に人気を集めているのが、現在もS役でトップを務めている彼の友人である。
コスチュームも数多く取り揃えており、住み込みで働くスタッフたちも普段からそれに身を包んでいるため、ツナギの彼が浮くことは決してなかった。しかしドールは、S役でもM役でもない。ただ雑用をこなすだけのスタッフだ。客の要望があれば、他のスタッフも個室のプレイルームに派遣されるのだが、彼だけは例外だった。それは彼がレストであり、彼の現在の主人がそれを許さないためだった。だから彼は、先ほどのような使いに出たり、今のように商品の陳列といった雑用をこなしている。
誰にでもできるような仕事と言われればそれまでだが、人前で口が利けず、碌に学を受けていないレストができる仕事は限られていた。だから、彼は与えられたこの雑用の一つ一つを、手抜きすることなく懸命にこなしていた。
「ドール」
オーナーが彼を呼んだ。振り返ると、オーナーがデスクから彼へと視線を向けている。首を傾げれば、オーナーは眉間に皺を寄せて尋ねた。
「殴られたのか?」
ハッとする彼の反応に、オーナーは短くため息をついた。持っていた手鏡で殴られた頬を確認すれば、腫れてこそいないものの、口の端に黒ずんだ血の塊がこびり付いていた。
慌てて作業を中断し、手の甲で拭う彼に、オーナーは静かに近寄り、自前のハンカチを差し出した。
「客に見られてないだろうな?」
オーナーからハンカチを受け取ると、ドールはやはりメモパッドで言葉を返した。
〈大丈夫です。すみません。見苦しいものをお見せしました〉
ペコリと頭を下げる彼に、オーナーは「しょうがないな」と微苦笑する。そして彼の肩に軽く手を乗せた。
「じゃあ、こっちはオレがやっておく。お前はすぐに医務室に行ってこい」
〈とんでもございません。俺なら大丈夫ですから。仕事をさせてください〉
オーナーの心遣いに、彼は首を激しく横に振った。
〈大丈夫です。オーナー〉
その返事に、オーナーはげんなりとした様子で自身の頭を掻いた。
「お前はいいかもしれんが、オレが嫌なんだよ」
ドールは僅かに首を傾げた。
「これがあいつに見つかったら、一体どうなると思う?」
その問いがなされたと同時に、事務室のドアが勢いよく開放された。
「失礼しま〜す!」
事務室に二人の男が入ってきた。
ご機嫌の声を上げて入室したのはあのマドカという男。そしてもう一人は全身を黒で纏った、瞠るような美形だった。
流れるような柳眉に、スッと通った鼻筋、形良い唇に実に対称的なバランスを描く輪郭。一八〇を悠に超える長身に、それに見合った長い脚。スラリとした体躯なのに、黒のカッターシャツから覗く胸元を見るだけで、程よく精錬された肉体であることがわかる。何より、見つめられるだけで堕ちてしまいそうなほど、深い漆黒の瞳が印象的な男だった。
カッターにスラックスというかなりラフな格好だったが、華やかなマドカの横に並んでも、見劣りしないほど釣り合って見える。
しかしそんな男に少しだけ違和感を覚えるのが、彼の髪の色だ。前は目元まで、後ろは首筋まで隠すほどの長さのそれは、人工的に黒に染めており、ところどころ金のメッシュが入っている。だが、それが似合わないのではなく、むしろクールなその風貌に拍車をかけていた。
オーナーは入室した二人を確認すると、ドールにだけ聞こえるように、「噂をすればなんとやら」と耳打ちする。
「何の用件だ?」
「今日のショーの登録をしに来たんです!」
「あ? お前、今夜はショーに出ないんじゃなかったのか?」
オーナーが尋ねると、ドールと相対していた時とは打って変わって、すこぶる機嫌のよいマドカが、猫なで声で事由を口にする。
「そうだったんですけど〜。水鏡様がショーに出られるって聞いて、僕、いてもたってもいられなくなっちゃって」
マドカは頬を朱に染めながら、水鏡と呼んだ隣の男に恍惚とした視線を送る。オーナーはそんな彼を尻目にしながら、水鏡に尋ねた。
「いいのか? お前、今夜は予約が入ってるぞ?」
「ついさっき客からオレに直接連絡があった。仕事の都合でキャンセルだそうだ」
その美貌によく合う、透き通るようなバリトンの声音。一度耳にすれば忘れられそうにないほどの美声で、水鏡はオーナーへ端的に答えた。
それに続いて、マドカが居もしない相手を嘲笑った。
「ばっかですよね〜! 水鏡様の調教なんてそうそう受けられるわけがないのにキャンセルなんて! 僕だったら、仕事を蹴ってでも水鏡様の下に……」
「口が過ぎるぞ。マドカ」
調子づく彼に、これ以上は言わせまいとオーナーが窘める。しかし、反省をしていないのか、表に笑みを貼りつけたまま、マドカは語尾の長い返事をする。
毎度のことなのか、オーナーはそれ以上何も言わず、頷きながらデスクに戻った。
「わかった。登録しておく。水鏡合わせでコスチュームを替えてこい」
「は〜い! 水鏡様、参りましょ」
マドカはファーを靡かせながら、水鏡の腕に自身のそれを絡ませる。
まるで恋人同士のように密着するマドカに、水鏡は関心を見せなかった。まるで何もないかのように、視線すら落とさない。そんな彼の視線の先にあったものは。
「それは?」
「ああ、ドールのことか? 見ての通りだよ。医務室に行けって言ったんだがな」
この三人の間にいて存在が薄くなってしまっても仕方ないほど平凡で地味なドールは、両手を前にして控えめに佇んでいた。口の端にこびり付いた血はなかなか取れず、結局はそのままの状態になってしまっていた。それを水鏡は指摘したのだ。
ドールは前屈みになった状態でメモパッドに文字を打ち、彼らの前に翳してみせた。
〈申し訳ありません〉
そして深々と腰を折る。そんなドールに、マドカは不躾な態度で蔑んだ。
「うわぁ。そんな醜い状態でここにいたの? 気持ち悪い〜。いったいどこでぶつけたんだか」
ドールは頭を下げたまま、何も反応を示さない。そしてマドカも、水鏡の腕に抱きついたまま、次々と下賤な言葉を羅列した。
「あ、もしかして客に可愛がられてたんじゃないの? 中にはいるもんね〜。殴って動けなくなった相手におっ勃てる奴! いくら貰ったの? こっちの手当より割りよかった? ああ、それとも無償ボランティアってやつ?」
ドールは何も言わない。それこそ人形の様に、ピクリとも動かない。マドカは続けた。
「わかった。実はこっちの気があったんでしょ。雑用なんて手抜きしてもわかんないし、時間なんていくらでも作れるもんね。純情そうな顔してたって卑しい身分からは抜けられないもんね。所詮レストはレスト……」
ドン! と。突如、何かを打ちつける音がマドカの台詞を遮った。
「マドカ。お前、いい加減にしておけよ」
オーナーが鋭い眼光でマドカを睨みつけていた。彼の右手は握り拳を作ってデスクの上に立っている。元々の低い声音に凄みを利かせて、彼は静かに忠告する。
「言ったよな? ドールは確かにレストだが、ここではそんな身分は関係ねぇって。いちいちそれを盾にしてレストを服従させようとする連中はここにはいらねぇって、オレは言ったよな? お前もオレもこいつも、同じアンダーグラウンドに身を置くしか生きられない……卑しい身分連中だってよぉ」
「オーナーッ!」
その台詞にドールは思わず顔を上げ、マドカはたまらず声を上げた。一方は脅威に満ちた表情で、そしてもう一方は異議を唱えたいとばかりの表情でオーナーを見た。
「本当の事だろ? ここで働く奴らはそんなんばかりだ。地上じゃ生きていくことができねぇから、ここにいるんだ。地上にだって、東の方に行けば政府から公認の娼楼街がある。センターが娼館で働くなら何もここじゃなくていい。売られる先だって、センターの人間がここになることはまずない」
アンダーグラウンドに売られるのはいつだって、自身に権利を有さないレストの連中ばかりだ。
いや、そもそもレストの存在がほとんど忘れ去られている地上から、アンダーグラウンドへレストが売られることはないし、政府が目を光らせている地上へレストを売るようなことはまずなかった。つまり、アンダーグラウンド内でしか、彼らの売買は行われないということである。例外など、稀にしかない。
そしてセンターの人間が売られることはあっても、そこには何らかの力が働いているのか、その先がアンダーグラウンドであることは決してなかった。要するに、センターの人間がアンダーグラウンドで働くことは自分の意思で、ということになる。
ドールを除くその場の全員が、自らの意思でここに身を置いているのだ。
「オレが使いに出したコイツに用を押しつけられるほど、お前は偉くないんだよ」
「なっ! お前、チクッたな……!」
マドカはオーナーから視線を戻し、ドールを睨みつけた。しかしオーナーは、悪びれた様子もなくあっさりと告白する。
「いや。ドールはなんも言わねぇさ。そんなこったろうとカマかけてみただけだ」
「なっ!」
赤面するマドカに、オーナーは釘をさした。
「マドカ。ドールはお前の所有物でもなければ、オレの物でもない。コレの主人はただの一人、キョウだけだ」
キョウ。
それが今の、ドールの主人の名だった。その存在は、ドールと、一部の人間しか知らず、マドカはその姿を見かけた事さえない存在だった。
「オレはそのキョウから預かってドールに働いてもらっているだけだ。わかったら、もう二度と下らない事を抜かすんじゃねぇ」
その言葉に、マドカは悔しさを隠さず歯を食いしばった。そしてドールをこれでもかというほどの憎悪を込めた瞳で睨みつける。
対して、ドールは何も言わず、ただ一身にそれを受けていた。その時だった。
「なら、そのキョウから躾け直されて来い」
涼やかな美声が室内に響き渡った。誰もが誰も、その声の主に視線を向ける。
「水鏡?」
オーナーが怪訝な様子で水鏡に尋ねた。しかし、彼は表情を変えず、ただ静かに答えた。
「それがキョウの物だというのなら、キョウから躾けられるしかないだろう。理由はなんであれ、それは自己管理ができていない。ここはそんな不細工を置く店じゃないんだ」
「水鏡、お前……」
「異論がありそうなところ悪いが、躾けがなってないのは事実だ。レストですと看板下げて、ふらふらとこの店内を徘徊されるのは迷惑なんだよ」
それ以上の理由はないと、水鏡はオーナーに視線を送る。そんな彼に、オーナーは何か言いたげな素振りを見せたが、結局は何も言わずに押し黙ってしまった。
「それの主人であるキョウと連絡がとれるのはオレだけだ。つまり、それをキョウの下へやることができるのもオレだけだ……治療が終わったらいつもの部屋に行け」
水鏡は言い終わると、ドールに命じた。ドールはメモパッドをポケットにしまい、頭を下げた。