Lovers Tale
BL/ML/ラブコメ短編集
バスタイム
「ただいまー……あれ? 倭ー?」
唐突に開けられたバスルームのドアに、バスタブに身を沈めていた倭は驚きもせず、ひょっこり顔を出した男を見上げる。
「おかえり、恵一」
「ただいま」
既にネクタイと上着を脱いでいた恵一は裸足になっていて、バスルームに足を踏み入れると倭に口付けた。
「今日はローズか」
ドレスシャツの袖を捲って恵一はスラックスも濡れないよう注意しながら腰を落とすと、ピンクかかった濁り湯に指先を浸らせる。
「わかるの?」
「そりゃあ、毎日色んなの嗅がされればな」
「好きでしょ?」
「お前さんのお陰でな」
嬉々とする倭は満面に微笑み、手に取った恵一の手の甲に口を付けた。
片や生粋の日本人、片やハーフの二人は似ても似つかない従兄弟である。恵一の父方の姉がイギリス人と結婚し、程なくして産まれたのが倭だった。倭の父親はジャパニーズフリークで若くして日本に移り住んでいたのだが、日本で生まれたと言っても倭はその外見からなかなか周囲に馴染めず、年の離れた恵一が何かと構い世話を焼いていた。すっかり懐いた倭と面倒見のいい恵一はごく自然に付き合い始め、一人暮らしであった恵一のマンションで同棲を始めたのだ。
しかし、互いにはそれぞれ悩みがある。
「じゃあ、俺も後で入るかな」
立ち上がる恵一の動作は踵を返しきれずに──上半身が仰け反り留まった。振り返り見下ろす恵一の目にはドレスシャツを辛うじて掴まえて自身を見上げる、大きな猫目の倭がいた。
「どうした?」
「ちょうどいいじゃん。一緒に入れば?」
ぎくりと硬化する恵一の最大の悩みは、恥ずかし気もなくストレートなアプローチを仕掛けてくる、無邪気ながら小悪魔な倭の放つ色気である。三六歳のいい大人が一八歳の高校生とセックスするのは流石にまずいだろうと、恵一は自粛し続けていた。
「いや、俺は……」
「ダメ?」
(くああああ! そんな格好で誘惑しないでくれええ!)
恵一は顔を手で覆い背けつつ、自身の欲求と理性の狭間で喘ぐ。
容赦なく恵一を翻弄する倭の悩みはまさに、未だキス止まりの二人の関係だった。いつまでも自分を子供扱いする恵一がもどかしく、こうして何度となく誘惑し続けているのだが思いは遂げられないまま。大切にされていると理解はしていても、欲求はあるし止められない。
「恵一。俺のこと愛してるなら、ちゃんと触って」
腕にしがみついて請う倭の艶やかな声と思わぬ口説きに、状況に悶々とする恵一の中でブツリと何かが切れた。
「服脱いでくる」
振り向きもせず、すたすたとバスルームを後にする恵一を見送った倭は、してやったりと北叟笑む。
(さようなら、俺のなけなしの理性……)
今更道徳云々を言える立場でもないと思い知りながら恵一は、着々と脱いだ服を纏めてバスルームへと踵を返した。
この後、箍が外れた二人が時間も忘れてじゃれ合い、身体中の水分を搾り取られたほどにのぼせてしまったことは言うまでもない。
ありがとうございます!