久多良木文庫
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Lovers Tale

BL/ML/ラブコメ短編集




紳士な上司 鷲原一美の独り言




 のんびりと湯に浸かって寛ぐ、このひと時が堪らなく俺は幸せだ。特に今日は資料庫の片付けや残業もしてへとへと、寝不足と運動不足も祟って鈍った身体に鞭打ち過ぎてしまった。
「ふう……魂抜けるう」
 俺は熱々の白タオルで視界を覆いつつ上を向き、ゆったりとしたバスタブに足を伸ばした。
「しかし今日は、妙に長い一日だったなあ。いつもより絡まれた気もするし……年上に弱いのかなあ? 俺って」
 大きく吐いた嘆息が浴室に響く。
 出社早々の恒例行事は百歩譲って仕方ないにしろ、ぐるぐると一日の出来事を思い出して俺は、はっと顔を上げてタオルが湯を弾いた。
「いやいや、どう考えても過剰なスキンシップが問題だろ。大体、俺は男だぞ? 筋肉だってそれなりについてるし、あるところにはちゃんとあるし、やることもやるし…………彼女がいないからか?」
 俺は湯から拾い上げたタオルを絞って頭に乗せ、頬を引き攣らせる。
 恋人なんて作ろうと思ってできるものじゃない。それ以前に仕事で手一杯な俺にはできたとしても、また元彼女の二の舞を踏むだろう。
「別に飢えてもないしなあ。いなきゃいないで困ることもないし、オカズさえあれば一人でだって抜けるし……」
 まだまだ若い健康優良男児だ。AVの類に悶々とすることも当然にある。正直、彼女がいるもいないも関係ないが。
 ふと股間に目がいく。考えてみれば最近、コイツの相手をしてない。自分の分身さえ蔑ろにするなんて不届きな野郎だっ──とまでは思わないけれども、溜め込み過ぎるのは何事にもよろしくないだろう。
 寝る前に一発やってすっきりしようかと、頭の中でオカズのチョイス……。
──大丈夫か? 鷲原。
「なっ!? なんで都谷さんが出てくるんだよ!? そこで!」
──どこも怪我をしていないのならいい、気にするな。
 スーツの上からじゃ分からなかった。年齢に不相応な都谷さんの固くしっかりした身体の感触。抱き止めてくれた力強い腕のぬくもりがまだ残ってる気がして俺は、身体の内側から沸々と滾っていくものに脅かされそうで──。
「だああああああ!!」
 俺は邪な思考を吹っ切るかの如く、頭上のタオルを握り締めて両手に拳を作り仁王立つ。
「出すもの出してとっとと寝るが吉だ!」
 男が男に発情するなんて俺には未知の世界だ。大体そんな、汚れた妄想に憧れて止まない上司を巻き込むことは絶対にあってはならない。自分の中だけで起こる情事であっても、微塵でも考えてしまった俺は最低の人間だ。
 有言実行、善は急げ。性欲を垂れ流す男の姿は女からすれば軽蔑に値するのだろうけれど別に誰に見られてるわけじゃなし、そんなことに気を遣う余裕も必要もなかった。
 しかし何をしようとエレクトせず、結局俺は不発のまま床に就く羽目となったのだった。

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