久多良木文庫
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Under Tale

書き捨て短編集




ある男の手記




 “善”は“悪”によって成り立つものである。この世の理も生きる人も全て、悪意によって成り立っている。この世の全て、悪が存在するからこそ善は生まれ、悪が存在するからこそ善は求められる。幸せを望む者ほど真に悪の存在を求めては、そこから得た平和を幸せだと感嘆し、故に命在ることを神への言葉とするだろう。人間とは永遠の平和を願いこそすれ、足元の幸福さえ知らず踏み荒らし、自ら破滅への道を造り辿っていくのだ。人間世界、生命の有無は、悪が存在するからこそ、その価値を無限に見出していると言えよう。
 それならば、いっそ造ればいい。悪が絶対的必要不可欠であると言うのなら、それを望む人間の手で、悪という存在を生み出してしまえばいい。必要なのは限りない欲望と、ほんの一握りの好奇心。偽善の悪意と底無き欲から産まれたものは、それこそが純粋な無限の悪となる。
 善を求めるが故の行為か。
 破滅を欲するが故の行為か。
 ただのお遊びで済むのならそれもまた一興。欲求とは生き物そのものであり、理性などでは成立しない“本能の核”なのだ。

 創造と解放。
 、そして破壊。

 悪いのは全てで、何者でもない。間違いというものはこの世に無く、正しいことさえ卑下される。この世は何だと口にする者は排除され、疑念を抱くことも許されず、ただ、今目の前にあるものを受け入れろと強制する。生き物そのものに表も裏もありはしない。計れる善悪などこの世には無い。だからこそ統一される世界がある。

 望まれるは──不滅の悪意。

「私はこの手で悪意を作り上げた。それはこの世に最も不可欠な絶対的必要悪──だが、浅はかだった。人が本来持つ悪意は本能、欲の塊だ。私は愚かにも理性を欠き、己の欲を剥き出しに思うがまま“それ”を作り上げてしまった。
そうだ。確かに必要だった、私にとって。それがどんな結果を招くことになろうとも、寧ろこの世にではない。どうしても私には必要だった。だから悔いても愚かな嘆きに過ぎない。いや、それだけではない。果たして私は間違いを犯したのか、それだけは今でもわからない。本当にその行為が、結果的に望まれる存在を作り出した卑しき欲望が、果たして浅はかで愚行な過ちだったのかどうか……」

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