DOLL
BL/純愛/R指定
黒のメサイアと仮面のご主人様 第四幕
「とにかく、今夜はもう休めよ。いいな?」
〈でも、お仕事がまだ残ってるから〉
「駄目だ! そんな状態で働けるわけねぇだろ。それに身体壊しちまったらまた……えっと、キョウだっけ? ご主人様にお仕置きされるんだろ? そんなの、ドールの身体が持たねぇよ」
〈でも〉
「オーナーには俺から言っておくから、早く部屋に戻ってゆっくり休め! いいな?」
〈ありがとう〉
「礼なら、今度一緒に外へ遊びに行こうぜ!」
ライの半ば強引な勧めにより、赤月は早退することになった。
赤月個人の部屋は店外のスタッフ寮にあるため、彼は客に見つからないよう店内裏口から出ることにした。節電のため消灯されている閑散とした廊下を静かに歩いていると、背後から人の気配を感じた。
しかし、パッと振り返ればそこには誰もいない。気のせいだろうかと再び前を歩き始めると、急に意識が遠のいていく。
「ん……」
なぜだろうと考える暇もなく、赤月は完全に意識を失い、そして崩れ落ちるかのようにその場で倒れてしまった。
それから、どのくらいの時間が経ったのか。
赤月が目覚めると同時に飛び込んできたのは見慣れぬ天井だった。ここはどこだ、と赤月は回想する。
確か自分は寮に戻るため、裏口へと続く廊下を歩いていたはずだ。
しかし、そこからの記憶が全くない。
いったい何が起こったのかと考えながら、赤月は横になった自身の体を起こそうと身を捩る。
するとなぜか貧血のように頭がぐらついた。もともと、貧血をよく起こす体質ではあったが、最近は力もついて久しくなかった。
では、本当に病気なのか。
しかし、その予測は外れた……残念なことに。
「あ、目が覚めた? オハヨー」
耳に入ってきたのは聞き覚えのある高い声音。そしてそちらへと視線だけを動かせば、見覚えのある煌びやかなファーが目に飛び込んでくる。
そこには、なぜか嬉しそうに微笑むマドカがいた。
湧き上がる様々な疑問。そしてそれを知っていそうな彼に尋ねようとポケットをまさぐると、メモパッドがない。
いや、そもそも。ツナギを着ていなかった。それどころか、何も身につけていない。
赤月は一糸纏わない姿で、ワインレッドのキングサイズのベッドの上に寝かされていたのだ。
「ああ、いつものメモパッドはそこ。でも必要ないし」
混乱と戸惑いを隠せない赤月に、マドカは床へと指さしながらそう告げた。彼の向ける指の先へと視線を落とせば、無残にも破壊されたメモパッドがあった。
言い知れぬ恐怖が赤月の背筋を凍らせた。すぐさまそこから視線を逸らし、マドカに表情だけで尋ねかける。
すると彼は、今までに見せたことがないほど上機嫌な笑顔で赤月に答えた。
「どういうことって顔だね? ふふっ、教えてあげる。まず、ここは僕のプレイルームだよ」
彼の言うとおり、よくよく見渡せば今いるここはマドカのプレイルームだった。無機質で暗いプレイルームが多い中、マドカの部屋だけが派手に豪華であるのを覚えている。
だが、なぜ自分がここにいるのだろうか、と。さらなる疑問が出る。そしてまたもや、マドカはそれに答えてくれた。
「どうしてお前がここにいるのかってことだけど、理由は簡単だよ。お前も役に立つ時が来たっていう、ただそれだけのことさ」
ほら見て、と。
彼は赤月の背後に向かって手の平を差し出した。それは客を紹介するときと同じポーズであり、赤月は重い頭を抱えたまま、恐る恐ると背後を振り返る。
そこには、何人かの男たちの姿があった。背広を着る男や、ラバースーツ姿の男、中には自分と同じく全裸姿の男までがいて、そして皆が皆、顔を隠すように仮面をつけている。だが、「DOLL」に通う客たちであることは、その外見的な特徴から判断することができた。
赤月の額から嫌な汗が滲み出る。そこへ追い打ちをかけるように、マドカからの冷然とした紹介が入った。
「あの背広の方はね、初めてお前を目にした時から気になってたんだって。苛めたくてしょうがなかったらしいよ? それから、あのラバースーツの方も。お前をね、複数の男に犯させたくて仕方なかったんだって。あの方なんかほら、待ちきれなくってもう全裸になっちゃったし」
ふふっ、と。マドカは無邪気に笑った。
「よかったね? レストの分際でも、この店の役に立つ時が来たんだよ?」
赤月は恐怖に顔を引き攣らせた。
すぐさまその場から逃げようと体勢を変えるも、背後の男たちの手によってベッドの上に引き戻される。
そして抵抗ができないよう両腕をベッドに押さえ付けられると、両足を二人がかりで大きく割り広げられた。
赤月の秘部は全員の目に晒されることになったのだ。
顔から火が出るほどの羞恥。
そしてこれから起こるだろう未知なる恐怖。
カタカタと全身を震わせる彼に、マドカは淡々と語り出した。
「前から気に食わなかったんだよ、お前。ご主人様に可愛がられるなら、ご主人様だけに尻尾を振っていればいいものを。オーナーに取り入って、ライにも気にいられて、あまつさえ水鏡様にまで媚を売ってるなんて……」
水鏡。
その言葉で、赤月ははっとする。マドカはあの水鏡の狂信的な崇拝者だ。そのマドカが、控室でのあのやり取りを知っていたら。
あの時、あのドアの外で全てを盗み聞いていたのだとしたら……。
「僕が知らなかったとでも? わかるんだよ! お前なんかより、何倍も何倍もあの方を想ってるんだから!」
マドカは激しく怒号した。
「お前がレストなんだってことを忘れているみたいだからね。思い知らせてやるよ。お前が人並みの扱いなんて、受けられない存在なんだってことをさぁ!」
嫉妬と憎悪。
その対象である赤月に、マドカの怒りは集中する。血走った目は、今にも彼を殺しかねないでいた。
マドカは凄艶に微笑む。
「大丈夫。ここについてる監視カメラにはちゃんと細工しておいたから絶対にバレないよ。偽のプレイ動画を流してるから、ここへは誰も駆けつけないし、助けも入らない。他にも手は回してあるし。それに、早退したお前を探す人なんていないだろうしね……可愛がってあげて」
マドカが指を鳴らす。それを合図に、男たちは赤月の身体をまさぐり始めた。
「これで水鏡様が不快な思いをすることはない。俺だけを見てくれる……」
赤月は抵抗する。止めてほしいと千切れんばかりに首を横に振った。
だが。
「ほらっ! 口を開けろ!」
「可愛いねぇ。ドールちゃん。この背中の傷の数だけ鞭を打ってあげるからね」
「ああ、早く犯したい。万遍なく顔射してやる」
「ふふっ。ザーメンパックなんて、そいつには贅沢だよ」
ここにいるのはマドカが集めた生粋のサディストたちだ。餌を与えられて我慢をすることなど知るはずがない。
必死の抵抗も虚しく、赤月の秘部に男の指が宛がわれた。
「んっ……あっ……!」
「へぇ。可愛い声で啼くんじゃないか。ほらっ、もっと大口開けて慟哭しろっての!」
「いっ……めっ……やっ……」
薄い胸は男たちの舌で蹂躙され、何とも言えない吐き気が赤月を襲う。
また、下肢では男の太い指がグッと自分の中へと捻じ込まれた。
痛い。気持ち悪い。嫌だ!
赤月の中で、何かが弾けた。
「やめてっ! キョウ様!!」
赤月は大口いっぱいに叫んだ。
そしてそれを目にした、マドカを含めた全員が目を見開き、驚愕した。
「なっ……お前、その舌……」
全員が赤月を見て驚いた。いや正確には、彼が大口になったことにより晒された、口腔内にある彼の舌を見て、だ。
その舌には、鳳凰を象る黒の烙印があった。
「それ……まさか……」
レストには、身体の一部に烙印を抱えているという。しかしそれは赤月を裸にしても見つからなかったため、眉つば物だと思っていた。
だが、彼が普段口を開かず、また口の利けないフリをしていた理由がそれを隠すためだとしたら。
「それが、レストの烙印?」
マドカは呟いた。それと同時に。
「何をしている?」
機械音が混じる低い声音が室内へと響き渡った。
「なっ」
声のする方へと振り返れば、プレイルームのドアは解放されており、そこに仮面をつけた銀髪の男が立っていた。
タキシードジャケットを身に纏う長身の彼に、マドカは見覚えがなかった。
「誰? アンタ」
外にはスタッフをつけていたはずだが、それをどうやってパスしたというのか。
いや、そもそもこの男は何者で、ここに一体、何の用があるというのか。マドカは思考する。
しかしその一方で、男の正体を知るただ一人が、その名を口にした。
「き…………キョウ…………」
「キョウ? あれが?」
男たちの慰み者として組み敷かれている赤月が、今にも泣き出しそうな声で紡いだ名は彼の主人のものだ。
どこかに発信器でも仕込んでいたのかと疑いたくなるほど、タイミング良く現れた仮面の男に、マドカは眉を顰めた。
だが、そのような考察は、この男にとって関係ない。
「お前ら……オレの物に手を出したな?」
まるで地を這うような怒りの声。機械音に乗って発されるその声は、そこにいる全員を標的と見なした。
「赦さん」
「ひぃっ!」
一瞬だった。
キョウは一瞬にして、赤月に触れる男たち全てを地に伏せた。
一体何が起こったのか、彼らがそれを理解する前に、事は終わっていたのだ。
呻き声を上げる男たちを目にして、マドカはその場で尻もちをついた。彼らの身体からは、真っ赤な血が滲み出ていた。そして、自身の頬からも。
キョウはそんな彼らには目もくれず、震える赤月に近寄り、自身のジャケットを羽織らせた。
「すまない。もっと早くに気づけたら、こんな目に遭わせずにすんだものを……悪かった」
「ご、しゅじ……さま……」
「すまない。怖かったな」
噛み合わない歯は主人を碌に呼ぶことができない。
しかし、キョウは赤月を責めることなく、むしろ自分の責だと何度も謝罪した。そして、赤月をその胸に抱いて頭を撫でる。
普段は余裕すら感じさせるその大きなその手は、僅かに震えていた。
口では答えられない赤月は、懸命に首を横に振った。
ここで。騒動は収まったはずだった。
赤月は助けられ、キョウとともにその場から去る。
恐怖から狂気に駆られた、愚かな者が血迷わなければ。
「う……うわああっ!」
「キョウ様!」
戦意など喪失しているかのようにその場にへたり込んでいたマドカが、その身に隠し持っていたナイフを手に、キョウへと向かって切りつけにかかったのだ。
痛憤するキョウがよほど恐ろしかったのだろう。殺される前に殺してしまえと、悪魔の声が彼に囁いた。
しかし惜しくも、キョウは赤月を庇いつつそれを避けたため、マドカは彼の首元に捲きつけられていた拡声器のベルトを切り落としただけだった。
「ふふっ……僕の顔によくも傷をつけてくれたね……でも、今度は外さないっ。二人まとめて消してやる!」
マドカはナイフを握り直すと、キョウと赤月の二人へと、その鋭い切っ先を向けた。
キョウは急に軽くなった首周りに手を回すと、忌々しげに舌打ちする。
そして、その場にいた誰もがよく知るバリトンが、その口から吐き捨てられた。
「チッ……奴隷と思って油断した」
「えっ!?」
「ご、主人……様?」
聞き間違えだと誰もが思った。
いや、そう思わせて欲しかった。
だが、現実は呆気なく、そしてマドカにとっては無情にも、明かされてしまったのだ。
キョウはその顔に貼りつけられた仮面を剥ぎ取った。
「みっ、み、みっ……!!」
愕然とした。
キョウの素顔は、マドカからナイフを取り上げるほど震撼させ、また赤月にとっても動揺を隠せない一時間前にも目にしたあの彼のもの。
「み……み、……み、かがみ……さま?」
「ああ。水鏡様だ」
コキッと指を鳴らして、キョウはマドカに対峙した。
一瞥した赤月には苦笑を浮かべ、そしてマドカには射殺すような冷徹な視線で威圧した。
「さて……どう仕置きしようか」
「そっ、そ、そんっ、そんなっ、そんな……っ、なんっ……嘘ですよね!?」
「煩ぇな」
「ぎゃあ!」
何かの間違だと叫ぶマドカに、キョウは容赦なく蹴りつけた。その威力は凄まじく、マドカの身体を数メートルも先に吹き飛ばした。そして周りで蹲っている男たちを足でどかしながら、倒れたマドカの胸を踏みつけた。
「ぐっ……かはっ……」
「その喉、潰れるまでよがらせた末に捨ててやろうか。光栄なんだろ? 感謝しろよ」
陰惨な光景。
赤月の目には信じられないほど酷薄なキョウの姿が映っていた。そして、それと同じ光景が。なぜか頭の中でフラッシュバックする。チカチカと眩む目の前に、今度は怒声のような大声が飛んできた。
「キョウ!」
「遅ぇよ。アイル」
それはオーナーだった。駆けつけてきたのか、額からは大粒の汗を垂らし、その表情はひどく深刻だった。
だが、彼は目の前の光景を目の当たりにして、ほっとしたようにため息をついた。
「殺すんじゃないかと冷や冷やしたぞ」
「大人しくさせただけだ。急所は外してる。それより……」
「ああ。わかってる」
オーナーが頷くと同時に、キョウはマドカから足を離した。そして赤月の下へ歩み寄り、彼の身体を抱きあげその場を後にした。
残ったオーナーは、ゲェゲェと咽こむマドカを前に、胸ポケットから煙草とライターを取り出すと、それを銜えて火をつけた。
「マドカ。忠告と警告。そのどちらも無視してこの行動に出たお前を、もうここに置く義理はねぇ」
そしてフーッと煙を燻らせる。
「オレはアイツより、優しいぞ?」
キョウの部屋へと運ばれた赤月は、今朝起きたベッドの上へとその身を降ろされた。
まだなお震える赤月の小さな身体を、キョウは優しく抱きしめる。赤月は彼の胸元にぎゅっとしがみつき、名を呼んだ。
「キョウ様……」
「悪かった。監視をつけていたんだが、アレに先手を打たれた。ライがあのままお前の様子を見に行かなければ、きっと手遅れだった」
「ん……」
「よく、オレを呼んでくれたな」
そう言って、キョウは赤月の頭を撫でた。
いつか赤月に手を掛けるだろうと、マドカの動向に注意を払っていた。極力彼を刺激しないよう、水鏡として彼に接していた。
しかし、思った以上の手回しで、今回の事件が起きてしまった。
自分の物だと豪語していた自分が情けない。キョウは赤月の存在を確かめるように、強く抱きしめた。
そして赤月は、震え声のまま、想いを吐露する。
「キョウ様……俺、キョウ様が……」
話を聞いてほしかった。どうしても。今でなければならなかった。
でなければきっと、もう二度と口にすることができないかもしれない。いや、もう今度がないかもしれない。
ならば。
伝えたい、この想いを。これで玉砕しようとも、拒絶されようとも、死のうとも。自分には何もないのだから。
キョウへの想いを、伝えたい。
赤月は、声を振り絞った。
「水鏡様が俺に触れられた時、抵抗……できませんでした。でも……それは水鏡様が、キョウ様に似てたから……俺、抵抗、できなくて……そしてそれに感じてしまって……俺、嫌じゃなかった。嫌じゃなかったんです……」
「それ以上言わなくていい。あれはオレが悪かったんだ。泣かせるようなことをして、悪かった……」
水鏡として赤月に触れたあの時。
主人としてのキョウではなく、別の男であるはずの水鏡で反応した赤月を見て、キョウは激しく嫉妬した。自分であることに変わりはないが、それでも赤月にとっては別人であり、キョウではない。
しかし、抵抗しない赤月を目にして、自分は彼にとって特別な主人ではないのだと痛感した。また、水鏡によって昂ぶりを見せた彼に、憤りを感じたのだ。
男に触れて感じるように仕込んだのは、自分だということも棚に上げて、キョウは赤月を追いこんだ。冷静になったあの後、彼は心の中で猛省した。
だが、赤月はそうじゃないと首を振った。
「でも、違うんです。俺、あの男の人たちに触られた時は、すごく嫌でした。痛くて、気持ち悪くて、死にそうだった!」
水鏡に触れられた時に感じなかった嫌悪感を、あの男たちには感じた。これ以上ないくらいの恐怖も抱いた。
単純に嫌だった。怖かった。おぞましかった。
水鏡にそれを抱かなかったのは、おそらく身体が彼を知っていたからだろう。自分が慕い、慈しんでくれる主人のものだと、きっとわかっていたのだ。だから赤月は、あの時キョウに戻っていた水鏡を受け入れることができたのだ。
「俺、キョウ様じゃないと、嫌です……!」
トクン、と高鳴る鼓動。それはどちらのものかもわからないほど、大きく弾んだ。
「キョウ様……キョウ様は、嫌かもしれません。気味悪がるかもしれません。でも……俺は、キョウ様のことが……好き、なんです」
自分はレスト。相手はクラウン。
しかし、ずっと傍にいたい。どんな形だろうが構わない。この男の傍で朽ち果てることができるのなら、それはこの上ない幸せだ。
でも、この想いだけは変わることなく彼を「好き」で居続ける。いや、「好き」よりもずっと強い、この感情をなんと言うだろう。
ああ、そうだ。
言われたことも、言ったこともないが、今の自分が抱く気持ちは、これ以外にない。
「愛してます……キョウ様」
ずっと傍にいたい。
いさせてください、と。
赤月は本当の想いをキョウに伝えた。
だが、しばらくしても彼からは何も返ってこない。
やはり、迷惑だったのだろうと、赤月は落胆する。だが、それでもいいと思ったのは事実だ。
赤月は愛しい男の顔を見上げた。しかしそこには。
「お前……ホント……」
「キョウ様?」
「見んな」
「わっ」
キョウは赤月の頭を抱えて、顔を自身の胸板に押しつけた。一瞬だったが、赤月は彼の顔を見た。
それは、今まで目にしたことがない、頬を赤く染め上げ、困惑を浮かべた表情の彼がいた。
ふーっと長いため息が真上から落ちてくる。どうやら、呼吸を整えているらしい。
赤月は動悸を抑えながら、彼の返事を待った。
「赤月」
「は、はい」
「本当だな?」
「はい」
「本当、なんだな?」
「はい。愛してます」
「そうか」
これで、本当の主人なら、当然だろ、とでも言うことだろうにな、と。キョウは照れくさそうに笑った。
それは今までに目にしたことのない、仮面を取り去った彼の本当の笑顔だった。
思わず見惚れてしまったその笑顔に硬直してしまうと、ふいに後頭部を抱え込まれ、唇を塞がれる。
「んっ……」
優しいのに激しいキス。
まるで赤月のすべてを奪いつくさんばかりに、キョウは彼の舌を貪った。
「んっ……んんっ……ん……」
漏れる嬌声が愛しい。潤む目元が愛しい。
「キョウ、さ……」
自分を見つめ、名を呼んでくれる赤月の全てが愛しい。
彼の腰に手を回し、額に羽のようなキスを落とした。
「いや、か?」
低く囁く甘美な誘惑。
そしてそれに対する赤月の答えはただ一つ。
「だ……いて、ください……」
その言葉を口にして、キョウは赤月を抱いた。激しい口付けの雨を降らせると、これまで以上に赤月を鳴かせた。甘やかすような愛撫から、悲鳴に近い嬌声を上げさせるような刺激を与え、赤月の身体の一つ一つを確かめていく。キョウは余すところなく赤月の全身に触れると、それまで、指で触れた事はあっても決して侵すことのなかった愛しい者の中に自身を沈めた。もちろん、赤月が苦しまないよう、丁寧に、たっぷりと時間をかけて。
「うっ……ああっ……」
「ゆっくり息を……そう、上手だ」
「ん……う、ん……ふっ……」
自分の中で熱く猛り、優しく律動を開始するキョウ。
想像以上の質量と痛みに、赤月の意識は何度も遠のきかけたが、その都度、愛しい者が名を呼んで、彼に優しくキスを落としてくれた。
そして今も、欲望のまま走ることなく、自分を気遣い共に絶頂を迎えようとしてくれることが、涙が溢れてしまうほど嬉しかった。
「んっ……あっ、ああっ、ん……」
「赤月……赤月……」
「キョウさっ……キョウさまっ……俺っ、おれ……もうっ……」
「ああ……一緒に……」
「キョウさ……キョウさ……あっ、ああ!」
「あかつきっ……!」
同時に放たれる絶頂の証。
そしてどちらともなく寄せ合う唇に、彼はあの時の答えを乗せた。
「愛してる……赤月……」